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不眠症に効果を発揮する認知行動療法とは?基本とやり方例
不眠症に対して効果的な治療方法ひとつに「認知行動療法」というものがあります。
不眠症患者の考え方や感じ方にアプローチしていくことが特徴で、睡眠薬などの投薬治療とは違った心理療法です。
欧米では高い効果が実証されている「認知行動療法」の基本とやり方例をご紹介します。
不眠症に効果的な「認知行動療法」とは?
簡単に言うと「不眠症患者の考え方や感じ方にアプローチすることで不眠を改善する心理療法」です。代表的なところでは、
- ゆがんだ認知の修正
- 間違った睡眠スケジュールの修正
- 筋弛緩法
などがあります。
”認知”という言葉は「なにかを認識し、それに対して持つ考え方や感じ方」のことを指します。
一見不眠症と関係ないように思えますが、状況を把握して正しく判断する”認知”ができていないと自分の知らないうちに偏った考え方やとらえ方にぶれてしまい、不眠症やうつ病の原因になることがあります。
最初は強いストレスや不安で眠れなかったはずが、眠れない夜を何度も重ねるうちに”今日も眠れないかもしれない、眠らなければ!”といった強迫観念で不眠がひどくなるケースも認知が関係しています。
日本における「認知行動療法」の現実
欧米では、不眠症だけでなくうつ病・統合失調症・摂食障害など精神面の健康を害している患者への効果が実証され、治療が広く行われています。
対して日本では欧米ほどの普及はしておらず、認知行動療法が受けられる病院自体も少ない状況です。さらに不眠症に対しての認知行動療法は保健の適用外となり費用の面でも負担が大きいというのが現状です。
「認知行動療法」のやり方例
ここからは、国立精神・神経医療研究センター部長であり睡眠の権威である三島和夫氏の著書「不眠の悩みを解消する本」より実際の認知行動療法のやり方実例を見ていきましょう。
まず患者さんに、1周間平均して、1日に平均何時間眠れたかを考えていただきます。これは寝床にいた時間ではなく、眠っていた時間です。ですから、眠りにつくまでにかかった時間や、途中で目が冷めていた時間は差し引きます。そしてこの時間に30分を足した時間を「寝床で過ごす時間」と決めます。就寝時刻は起きる時刻から逆算します。
この、「寝床で過ごす時間」を決めるのに、なぜ実際に眠っていた時間に30分を足すのかといいますと、不眠症の患者さんは、自分の睡眠時間を実際よりも短めに感じているケースが多く見受けられるからです。実際は6時間以上眠っていても、本人は5時間半と感じるようなことも少なくありません。そのため、感じたとおりの睡眠時間に合わせて「寝床で過ごす時間」を短くすると睡眠不足になりかねません。そこで、自分で感じている睡眠時間に30分から1時間を足しているのです。
こうやって算出した「寝床で過ごす時間」は、本人が眠ったという満足が得られる睡眠時間とほぼ同じ長坂、若干短めになります。このような調整によって、実際の睡眠時間と「寝床で過ごす時間」のミスマッチが解消されるわけです。
例えば正味5時間半しか眠れていないと思う場合は、5時間半に30分プラスして、6時間を「寝床で過ごす時間」とします。もし朝の6時に置きたかったら、午前0時までは絶対に寝室へむかわないようにしていただくわけです。
不眠に悩む方ほど、夜の9時とか10時位などの早い時間から寝床に入って、眠りにつくのを悶々と待っているケースが多く見受けられます。眠れないことによる疲れを強く感じて横になりたい気持ちはわかりますが、それでも眠れないから不眠症なのです。
どんなにつらくても、決めた就寝時刻まで寝ないところがポイントです。また、昼寝は夜の睡眠に影響しますので、できるだけしないようにしていただきます。
こうした生活を1習慣も続けると、睡眠不足の効果も加わって、寝床に入るとすぐに眠れるようになります。
(図解中略)
就寝してから寝付くまでにかかった時間と、中途覚醒や早朝覚醒が減っています。
このような「あまり苦労せずに眠れた」「知らない間に寝ていた」などの快眠体験を重ねることが不眠症治療には大切です。そして、患者さん自身が寝床にいた時間の90%以上を眠れたと評価できたら、次はさらに30分早く寝てもいいようにする(30分寝床にいられるようにする)というプロセスを繰り返します。
不眠症の患者さんにとって難しいのは「寝てください」と言われることですが、これは計画された時刻まで「寝ないでください」という治療ですので、苦しいでしょうけれど納得して取り組んでいただけます。また、眠気と戦っている内に、「今日は眠れるだろうか」といった不安も2習慣くらいで解消します。その段階まできたら、治療のステップはほぼ5合目を過ぎたあたりです。後は自然によくなっていきます。
引用:三島和夫著「不眠の悩みを解消する本」
「認知行動療法」の実際の治療のひとつはこのようにして行われています。
気がつかない内に睡眠時間を短めに感じてしまうなど”認知のずれ”による本人の睡眠感覚を、正しいデータの測定によって修正をはかっていきます。
また、”起床時間から逆算して寝床に入る時間を決める”という方法は「眠らなければいけない」「不眠を解消してたくさん眠りたい」と焦る気持ちと早すぎる就寝時刻が起こす”不眠のスパイラル”から脱却するためにも有効です。
「認知行動療法」を受ける際の注意点
ご紹介したように不眠症の認知行動療法は、実施する医療機関が非常に限られているため事前のリサーチが必要です。
さらに”病院で1回治療を受けて終了”や”薬をもらって飲むだけ”といった単純な治療法ではなく、不眠に悩む患者さん側の努力も必要になるという点で決してお手軽な治療法とは言えません。
睡眠のデータを毎日とったり、そこから決めた就寝時刻のルールを守るなど地道な努力や根気も必要です。こうした注意点を認識した上で受診を検討しましょう。
最後に
- 「睡眠データを計測し自分の睡眠を客観視する」
- 「必要以上に早い時間に眠ろうとしない」
などの方法は、本格的な治療を受ける前に自分でやってみることも可能です。深刻な不眠症状に限らず、よりよい睡眠を得るための方法のひとつとしても役立ちます。
毎日のように眠れない夜が訪れ、つらい思いが続くのが不眠症。しかし、たった1日で完治させられるようなお手軽な方法はありません。
「不眠症治療にはどうしても時間がかかる」ということを認識して改善にあたることを心がけましょう。
(不眠治療に興味のある方は「認知行動療法」による不眠治療を行っている病院を調べてみることをおすすめします。)
参考文献:三島和夫著「不眠の悩みを解消する本」